アタシは討伐隊に志願して、討伐隊のルーキー・ニコルとの腕試しでばっちり勝って、みんなに実力を認めてもらったの。で、その組み手を偶然見ていた王子と赤鬼にも実力を認めてもらって、ようやく討伐隊の戦力として数えてもらえることになったの。ほんと、アタシのこと信用してないんだから!
かくして王子と赤鬼、第二隊の八人は村の四方に位置する門を巡り、各所に騎士を配置していった。最も人通りの多い東門はジョン、次に人通りの多い西門にはロイドね。門自体は難ありだけど、視界の開けていて、今回の現場に一番近い南門にはシグ、森に面してて、一番可能性が高いと思われる北門にはジョシュが配置されたの。で、アタシとニコルは、それぞれ一人ずつ、時間で各門を回って情報の伝達役をすることになったの。
…で、その後の三週間は(早っ!)、村民の恐怖や討伐隊の緊張をよそに、何事もなく平穏が過ぎちゃった。信じられる?その間アタシは、第二隊のみんなと仲良くなるには十分すぎる時間を持つことができたのでツ♪
聞いてみれば面白いみんなの過去。実は失恋から女性不信になって、結果硬派になっちゃったジョシュ。「女は苦手だ!」って言いながらさぁ、結構稽古付けてくれたのよー。逆に、童顔が災いして「男らしくない」って失恋したニコルは、それを撤回させる為に騎士団に応募したらしいのよ。なんか、動機が何だかなぁ…ここは失恋騎士団?何度となく彼とも組手をして、結果は五分。期待されてるだけあって飲み込み早くてさ、二度同じ手が通じないの!組手してて面白い相手だけどネ★
シグの詩的な言葉と、柔らかな語り口はとてもムーディで、洗練されたセレブでも虜になりそうなほど。…ロマンチストでフェミニスト、ナチュラリストでナルシストな彼は、やっぱり自分が大好きなんだけどね。
ロイドが昔結構大きな盗賊団の頭領だったってのはリアルすぎて笑えなかったかも…大笑いしたケド(w*。なんでも、交易ギルドを主宰して、取引先の紹介や運搬物の半額を保証する保険をしていて、ギルド主、取引先、盗賊団を全て演じて、紹介料、運搬物(の半額)、取引先の被害額をせしめてたんだって。他にも、いろいろやってたみたいだけどね。ただ、賢くて人心掌握術に長けてる感じだから、アタシが食いつきそうな話題を提供してるだけかもって感じがしちゃう。ちょい信用できないかなぅ。
みんなと仲良くなる以上にジョンとは仲良くなりたかった…けど、仕事熱心な彼の邪魔にはなりたくなくて、ちょっと躊躇ギミ。だけど多分、一番長く一緒にいたと思う。この三週間と言うもの、ジョンってば、昼間は通行人に聞き込みでしょ、早朝や人通りの少ない時間には、現場に出向いて調査をしてて、夜は夜で村民宅を回って聞き込みをしたり、集めた情報を紙面にまとめたり…未だ現れぬ敵の正体を探ろうとしていたのよ!かっこいいよね。働く男の人って…イケメンだからかっこよさ200%よン★もちろん集めた情報は逐一王子達に報告してたよ。でも、そのせいでジョンの睡眠時間はアタシ達なんかよりずっと少ないはず…。
「とんとん♪ジョンたん、今夜も遅いの?」
その日もいつものように村の宿屋で入浴を済ませて、袖なしローブだけ(♪)を着て宿舎に戻って、生乾きの髪をチョンマゲにして、きれいさっぱり良い気分♪なんてったって、これからの時間は眠るまでジョンといられるんだから、これ以上嬉しいことなんてないよぅ★そして、アタシは何もない空間をノックする仕草で、ジョンに声を掛けるの。これがいつものお約束だから。
アタシは彼の隣に腰を下ろして、彼のにらめっこの相手を覗き込む。紙面の最上段に「村人の証言」と書かれた紙にほとんどコメントはない。それとは対照的に、「現場の状況」と書かれた紙の方には、複数枚に渡ってコメントや図が書き込まれてる。『大きな音、目覚めた』とか『大きな足跡』だとか、所々に走り書き。
事件が起こったのは現南門そばの視界が開けた地域とはいえ村外れで、犯行推定時刻は夜中から明け方にかけて。もともと人目のない時間で、実際発覚したのも翌朝になってから…。事件発覚と同時に領主に報告するほどの村にしては、騒ぎになるまでちょっと時間がかかりすぎている。…つまり、全然、全く、だ〜れも気づかなかったってことじゃない?これって。
彼の前に広がる紙を覗き込もうとしてジョンにぴたりとくっつく。すると、ジョンが不意にアタシの名前を呟いた。きゃ〜!もしかして湯上りりきゅあチャンにクラクラモード?三週目にしてついに!?…そう思うと、返す返事もウワずってしまう(恥。いゃん♪(ぉ。
「…なぁに(///?」
「あのさ〜りきゅあって、どこの生まれだっけ?」
いやん、生まれた場所がどこであろうと、死ぬときはあなたと一緒ヨ★…などと妄想していると、紙面を覗き込んだままでジョンは続けた。
「冒険者ってさぁ、いろんな土地を回るんだよね。今までに、今回の事件と同じような事例とか…見たことないかな?」
ちぇーっ。そゆことかぁ。アタシに興味なんてないのかなぁ?そう思いながらも過去の記憶をひっくり返す。冒険といってもまだそれほど深くなかったり。でもでも、言ってしまった手前、ありったけの記憶と知識を搾り出す。ふぬぬぬぬーっ。
その絞り汁の成分表示は、どこにでもありふれたモンスター襲撃の幕開けが80%、魔術師の仕業が10%、その他人外(自然だったり、古代の呪いだったり)の仕業が5%、その他が5%だった。どれにしても今回のケースに当てはめるのは難しい。襲撃系なら本体到着が遅すぎるし、術師にしても何らかの要求だったり声明があるはずだし、人外やその他は予測不能だし…。
「似たようなのはたくさん見てきたけど、ここまで酷いのはちょっとなかったかなあ?」
人差し指を唇に立てたまま、視線は上を見上げていた。天井に何か書いてあるわけではないけれど、何故かそうしちゃう。ジョンはちょっと落胆した様子で、そっ…か、と微かに声を漏らすと、また考え込んだ。アタシは力になれない情けなさ大盛で彼に謝るけど、彼はこんなときでも優しい。
「謝ることはないさ。十分有力な情報だよ。少なくともこの近辺の国では、これほど奇異な事件は起こっていないということが分かったんだからね。僕らみたいに宮廷に篭りきりで、戦争でしか外出できない騎士じゃ、到底手に入らない情報だからね」
そう言って彼は微笑みかけてくれる。なんてプラス思考♪さすがアタシの彼候補★(ぉ。それからどれくらい経ったくらいだろう?アタシはまた、いつものように彼に寄りかかるようにして眠りに落ちた。
翌朝、いつもよりだいぶ早めに第二隊は叩き起こされた。ジョンたんとラブラブな夢を見ていたので、目覚めは悪くなかったケドネ。早起きさせられたのは、今ある情報を元に考えられる犯人像を伝える為だった。もちろん完全な推測と言う前提を強調してジョンは語り始めた。
「みんなも知っての通り、村民による目撃情報は一切ない。だから、これから僕が言うことは現場からの状況証拠を元にした、完全な推測だ。思うところがあるなら、何なりと言って欲しい」
いったん言葉を切り、現場の状況を記した紙束を高々と揺する。
「僕がここにまとめたことから、要点だけを伝える。まずは犯行の動機。これは純粋に空腹と考えた。羊と住人、共に生きたまま食いつかれている。殺してから食らったのであればあれほどの出血はないし、下半身だけの羊の足元にはもがいた後があった。それに、家屋部分には貴重品や金品の類がほとんど残されていたという。ほとんど、と言うところが引っかかるかもしれないが…」
彼は紙束を持った腕で空を凪いだ。
「家屋部分はえぐられたように半壊している。そのときに破壊、紛失した可能性も考えられる。瓦礫を片していないから何とも言えないがね。
そして次は、犯人の知能程度だ。これは言うまでもなくみんなも分かっているだろうけど…」
「とんでもない馬鹿だなそいつぁ。金品が放置されたままだなんて、俺達ゃ聞いてねーぜ?」
ロイドが口を挟むが、ジョンは微笑んだまま続ける。
「ロイドが言った通り、犯人は極めて知能が低い。通常の人間の暮らしをしていれば、金銭を奪っておけば、しばらくは空腹をしのげることくらい分かるはずだ」
再度口を挟むロイド。
「人目のない深夜、そのうえ村外れの羊農家を狙ったのは?」
本当に疑問に感じている様子ではなく、ジョンを試す意味合いが強いと見て取れる。
「これが計画的犯行であれば評価できるところではあるけれどね。僕は動機を空腹とした。それはおそらく突発的事件だと考えたからだ。深夜というのも偶然だろうと思う。村外れの羊農家を選んだのではなく、家畜農家は皆、村の中央部から離れた外れに、広大な敷地と共に点在している。そして動物はいずれも、空腹時には異常な嗅覚を発揮させて餌を見つけるものさ。そうして引き寄せられた先があの羊農家だったと僕は推測している」
ロイドはにやりと笑うと、続けてくれ、と促した。アタシがうっかり口をはさむ。
「でも、人間なら羊を生で、生きたままかぶりつくことはしないんじゃない?…人間にも」
一同、当然だ!わかっとるわい!という冷ややかな沈黙。…言わなきゃ良かったー。
「…はは、全く、その通りだよね。さて、次は犯人の驚異的な腕力だ。羊を蛙か何かのように壁に叩きつけている。それに半壊した家屋部分…あれは一撃でやったものだ。ハンマーか何かでこまごまと崩していては時間もかかるし、騒音もひどい。住人から得られた数少ない情報の中に、”夜中に大きな音がして目が覚めた”と言うのがあるが、二度、三度とそんな音は聞いていないと言っている。裏づけは取れていると言うことだ」
ジョンが一息つくと、今度はジョシュが口を開いた。
「…となると、奴はどれほどの武器(エモノ)を使ってやがるんだ?家を半壊させちまうなんて…」
入れ替わりにジョンが話し始める。
「ああ。それも考えてみたさ。攻撃目標との接触面が広く、接触した衝撃で壊れないほど強力でなければいけない。予想できる形状は巨大なハンマー…家の半分くらいの大きさのね。しかし、注目すべきは、現場にはそういった物を引きずった形跡がないことだ。…つまり、常時持ち上げていたか、担いでいたことになる…」
ジョンの言葉が途切れ、沈黙が第二隊を飲み込む。誰もがそれは人間業ではないと確認するには十分で、その凶悪なほどの腕力に恐怖感を増さずにいられなかった。沈黙に耐えられなくなったアタシは、冒険者として思い当たることを口にしていた。
「…ってことはさ〜あ、やっぱり犯人は人間じゃないよね〜★人間じゃないから、犯魔物かなぅ?」
ロイドの視線が、アタシに、バーカ、と突き刺さる。うぐっ。気を取り直して…。
「あのね、モンスター退治のプロから言わせてもらうとね(プロって歳かよ、とロイド)…脳みそまで筋肉でできてるような奴っていっぱいいて、今回は多分ミノタウロスかトロールかな〜って感じがしたの。巨大で凶暴で肉食だし。でも、ジョンたんの話を聞いてると、ミノさんじゃ、ちょっとちっちゃいのよね。でも、トロールだともっともっとずっと北の、万年雪みたいなところに棲んでるから、出張するにも遠いかなって…」
あ〜、沈黙がヤだから言い出しちゃったけど、結局結論なし〜みたいな。言葉に詰まって、笑ってごまかそうとしていたら、ジョンが腕組みをして大きく頷いてくれちゃってる?
「なるほどね。確かにりきゅあの言う通り、ミノタウロスでは役不足だが、トロールでは足が届かない、か。僕もその線は考えていたけど、棲息地までは考えていなかったよ。でもね、この事件にはもっと不思議な謎があってね…」
間を取ったジョン。その間は完全な沈黙が征してた。そして、ジョンが続ける。
「…足跡がないんだよ」
えぇ!?昨日見た紙には「1mをゆうに超える足跡」って書いてあったのに?それに、みんなで現場を確認したときにも、明らかに足跡らしき窪みを確認していたじゃない?同じように思ったのか、ロイドが噛み付いた。
「おいおい、お前さんは盲(めくら)にでもなっちまったのかい?俺ら全員で馬鹿でかい足跡を見たじゃねーか?!」
現場検証当時、足跡らしき大きな窪みを確認してはいたが、化物の仕業と考えさせる為のトリックだと考えていたロイドも、ジョンの仮説に動かされ始めていた。ジョンは、ああ確かに、と短く返すと、組んでいた腕を片方だけほぐし、顎を摩りながら続けた。
「でも無いんだよね、困ったことにさ。……現場までの足跡が一つもね」
第二隊は絶句した。確かに小屋内の足跡は幾つも重なっていて、家屋部分を半壊させた一撃を放った時に付いたであろう、小屋外の足跡も確認していた。けれど、この羊農家に辿り着くまでの足跡は、確かに誰の記憶に無かった。
「…それって…どゆ…こと…?」
思わずアタシは口にしていた。もちろん歩いて来たのでなければ、飛んで来たのだろうと想像はつく。けど…、条件に合う体躯、腕力を持ち合わせていて飛来する者と言えば、そうなかなかいないのよね。サタンの分身バフォメット〜?…なんて悪い予感がよぎる。しかし、その最悪の予感を口にしないうちに、ジョンが続けた。
「どうもこうも、一概には言えないけれど…僕は三つの可能性を考えている。一つは単純に飛んで来た。これが一番自然で、動機からも、犯人像からもしっくり来るんだ。
二つ目は敵対国からの襲撃。高位の魔術師ともなると、巨大な物体を瞬間移動させることもできると言う。歴史上の大国が、一人の大魔術師の落とした山で一瞬にして滅びた前例もある。そう考えれば怪物兵団を作って、瞬間移動で送り込む戦略も、あながち捨てきれない。…うちが小国なために取り込もうとしている国は多いからね。ただ、一度送り込まれた怪物が、姿を消したと言うことが今度は疑問として残ってしまう。
そして三つ目。できれば避けたい最悪の選択、…ライカンスローピー。古代の悪魔が残した呪いの伝染病…」
「短く儚い人生を哀れに感じ、悪魔が人に与えた永遠の命さ」
シグは詩的に、美しくまとめるけれど、本当は欲に溺れた人間を自滅に追いやる悪魔の甘い罠。ジョンは続ける。
「確かにこの伝染病に感染した者は強力な抵抗力、治癒力が身について、ちょっとやそっとのことでは死なない体になる。とはいえ、それはあくまで日常生活においては、だ。当然、首を落とせば死ぬし、血が通わなければ死ぬ」
「なら簡単に蹴りはつくな!」
ジョシュが身を乗り出すが、ジョンは首を横に振った。
「しかし、どうやって疾患者を探し出す?普通に生活をし、仕事もしている。つまり、発病しなければ、見当さえつけることはできない。感染後は満月の夜毎に発病し、その者を魔獣化させるとも、獣人化させるとも言う。熊に変身したり、半人半獣の狼人間に変身した例が記録には残っているよ」
おどけたようにロイドが指折り数える。
「熊に狼人間、他はなんでぇ?つまり、何に化けるか、皆目見当もつかないってことかい?
ただでさえ正体がつかめねぇってのに、満月の夜に、明けてビックリ!って訳かよ」
頷きながらジョンが続ける。
「まあ、そういうことになるな。ひとたび変身すると人としての意識は無くなり、凶暴化の末、破壊と殺戮を繰り返すようになる。その上、魔力を帯びた武器か銀製などの聖なる武器でしか傷つかず、恐ろしいほどの回復力を持っている…んだそうだ。
その上、この病は粘膜感染で簡単に広がり、人間にしか発病しない。つまり、ペットから簡単に侵入し、ロイドみたいな女好きが感染すれば、瞬く間に広がっていく訳だ」
やっぱり!ロイドは女好きだった!
…と、驚くところを間違った(ぉ。
ライカンスローピー…時代と風習を滅ぼす魔族の秘策。
はるか昔、法制度も整わない、酒池肉林を具現化したような時代。酌み交わす盃や、交わす肉体がもたらす病魔。一夜にしてその国家に病魔は蔓延し、次の満月の夜には皆が魔獣化し、盃を交わした者、体を交わした者を殺し合い、そして滅びた。悪魔はこの奇病を最初の一人に感染させれば良かった。これを見かねた天使は貞節を守らせる為の法を授け、一つの時代が幕を閉じた。
「ばっ…ちょっと待て!俺はこの街じゃ何もしてねーぜ?!ちゃんと任務についてたじゃねーか?なぁ、りきゅあ、そうだろ?」
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